今一番キテるライセンス?「SILオープンフォントライセンス」
近頃はいろいろなフリーフォントが利用できるようになりましたね。
ここ最近では、フォントワークスのフォント8種が「SIL Open Font License(SILオープンフォントライセンス)」で公開されたことも大きな話題となりました。
(ちなみに私が制作したフォント「Yusei Magic」「たぬゴ」「エセナパJ」もSILオープンフォントライセンスです。よろしくです。)
ところで、フォントやライセンスに詳しい人で無い限り、「SILオープンフォントライセンス」という名前は耳慣れないのではないでしょうか?すごく自由度が高いライセンスなのに、知らないなんてもったいない!ということで、この記事では、SILオープンフォントライセンスについてできるだけわかりやすく説明してみたいと思います。
※以下、正式名称は「SILオープンフォントライセンス」なのですが、長いので、「SILライセンス」と短く記述します。
まず、SILライセンス原文を読んでみよう
SILライセンスの原文はこちらで読むことができます。
日本語訳もありますので、こちらも読んでみましょう。
また、英文ですが、SILの公式サイトにはFAQも用意されています。
「よし、これで理解できただろう!」
いや、わかんねえよ……。
いや実際、FAQのページではかなり詳細な事例についても事細かに解説してくれているので、ちゃんと読めば特に悩むことはなさそうなのですが……。
ですが、もう少しだけ。普通の人が知りたい普通の部分がわかるように、簡単に説明します。
_人人人人人人人_
> 突然の結論 <
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ざっくりいうと、
(1)基本的には自由に使って大丈夫です。
ただし、以下の「条件付き」です。
(2)フォントファイルを人に渡す場合、またはソフトウェアに組み込む場合は、ライセンス情報と著作権者情報を必ず含める。
(3)そのフォントに「予約フォント名」が設定されている場合、Webフォントに変換したり、改変フォントを作るときにはフォント名に「予約フォント名」を含めないこと。また、配布時はSILライセンスを継承する。
これを逆に言えば、「フォントファイルを人に受け渡す」「自作のソフトウェアに組み込む」「Webフォントに変換する」「フォントを作るときのモトにする」以外は、何も気にせずに自由に使ってOKということになります。
それぞれの内容について、もう少し詳しく解説します。
(1)基本的には自由に使って大丈夫です。
1. フォントのアウトラインを利用した制作物の場合
- 書籍・雑誌・紙媒体の広告
- ロゴ
- ポスター
- 名刺
- 文房具
- 動画内の字幕
- 看板
- Tシャツ
- オリジナルの布地
- 3Dプリント/レーザーカットされた図形
- 彫刻
- ゴム印
- クッキーカッター
- 活字
上記は一例ですが、フォントの文字の「形」を使って作品・商品等を作るような使い方については完全に自由です。全く何も気にせず使って大丈夫です。そういう風に使ってほしくて、SILライセンスを設定している作者さんがほとんどです。是非たくさん使ってください。
作ったものを販売したりすることも全く問題ありません。「フリーフォント使って作ってるんだからタダにしないとダメ!」なんてことは絶対にありません。
クレジット表記やSpecial Thanks 〇〇みたいな言葉も特に必要とされていません。(あれば嬉しいけどね)
制作した作品の著作権者は、ちゃんとあなたなので安心してください。単に制作過程でSILライセンスのフォントを利用したってだけの話です。
ただ、成果物の提出等でフォントファイルを相手に提出しないといけない場合は、少しだけ守らなければいけないルールがありますので、少し下の「(2)フォントファイルを人に渡す場合、またはソフトウェアに組み込む場合は、ライセンス情報と著作権者情報を必ず含めること。」の項目も参照してください。
2. ソフトウェアにフォントのデータを含める場合
ソフトウェアとは、例えば以下のようなものです。
- ワードプロセッサ
- デザイン・出版アプリケーション
- トレーニング・教育用ソフトウェア
- ゲーム・娯楽用ソフトウェア
- モバイル機器用アプリケーション
ソフトウェアへのフォント組み込みについても、基本的には自由です。
フォントデータ部分に関してはSILライセンスを維持しないといけませんが、それ以外の部分の、自分が書いたコードまでフリーライセンスにする必要等は全くありません。フォント以外のプログラム部分の著作権をSILライセンスが上書きするようなことはありません。ソフトウェアを販売するのであれば、価格等も自由に設定できます。
ただし注意点として、ソフトウェア内のフォントデータ部分に関しては、必ずSILライセンスのままでキープしなければいけません。ソフトウェア作成者が勝手にフォントの持つSILライセンスを変更して、有償フォントのような扱いにしたりすることはできません。これはフォントがオリジナルでも改変フォントでも同様です。(改変ファイルの詳細については最後の項「(3)Webフォントに変換する場合や、改変フォントを作る場合は、フォント名に元のフォント名を絶対に入れないこと。また、SILライセンスを継承すること。」を参照してください。)
例えば、写真への文字入れアプリで、SILライセンスのフォント(またはその改変フォント)を追加の有料コンテンツとするような使い方は、ライセンスの書き換えと読み取れますので不可となります。もし写真の文字入れアプリ自体が有料で、購入時に標準でフォントが付いているのであれば、あくまで価格はソフトウェア自体の価格であってフォントのものではないと解釈できるのでOKです。
以下(2)と(3)は、(1)を踏まえた上で、追加となる条件です。
(2)フォントファイルを人に渡す場合、またはソフトウェアに組み込む場合は、ライセンス情報と著作権者情報を必ず含めること。
SILライセンスは、みんなに自由に使ってほしいという思いが込められたライセンスです。その願いが、フォントファイルが人の手から手に渡り歩く間にうやむやになって、誰かが使用に制限をかけたり、有償フォントのように取り扱われる……なんてことが起こらないようにしなければなりません。そのためには、フォントファイルの配布やソフトウェア組み込みの際に十分な配慮をする必要があります。
SILライセンスでは、フォントデータを配布する場合には、フォントの著作権者とSILライセンスであることが伝わるようにすることが条件として定められています。
これはデザインなどでフォントのアウトラインを使用した作品をつくる場合には該当しません。また、埋め込みPDFなどでの使用も、フォントファイルそのものの配布ではないので、この条件には当てはまりません。ソフトウェア等でフォントファイルを同梱したり、フォントファイルを誰かに送信する場合に求められている条件です。
具体的には、配布時に「ライセンス文書」「著作権者」のドキュメント等(readme.txtやOFL.txt)を一緒に配布する方法が一般的です。
(3)そのフォントに「予約フォント名」が設定されている場合、Webフォントに変換したり、改変フォントを作るときにはフォント名に「予約フォント名」を含めないこと。また、配布時はSILライセンスを継承すること。
1. フォント名の変更について
SILライセンスのフォントをWebフォントの形式に変更したり、中身を改変することは自由に可能です。
ただし、もしあなたがフォントの改変や形式の変換を考えている場合は、まずそのフォントに「予約フォント名」が設定されているかを必ず確認するようにしてください。
「予約フォント名」とは、フォントの作者さんが考える、いわゆる「派生のフォント名に使ってほしくない単語」です。
SILライセンスでは、改変したファイルに「予約フォント名」を入れることが禁じられています。
「予約フォント名」は、配布時に同梱されている著作権について書かれたドキュメントに記載されています(OFL.txt、License.txt 等)。例えばSILライセンスである源ノ角ゴシックでは、フォントファイルが配布されているGitHubページのリポジトリ内にあるLicense.txtの一行目に下記のように記述されています。
Copyright -2020 Adobe (http://www.adobe.com/), with Reserved Font
https://github.com/adobe-fonts/source-han-sans/blob/release/LICENSE.txt
Name ‘Source’.
「with Reserved Font Name ‘〇〇’」の部分が、「〇〇を予約フォント名に設定します」という意味を表しています。源ノ角ゴシックの場合であれば、「Source」という単語が予約フォント名として設定されていることがわかります。
もし手元にOTFファイルやTTFファイルなどのフォントファイル本体しかない場合は、必ず配布サイト等の入手先にあるライセンス文を確認してください。
作成者さんによっては、ユーザーに予約フォント名が設定されていることが伝わりやすいよう、ライセンスファイル以外の場所(readme.txtなどのドキュメント、配布ページ、フォント本体のメタデータなど)にも予約フォント名を記載してくれていることもあります。こちらも十分に確認するようにしてください。
ところで、このフォント名変更の決まりについては、おや?と不思議に思う人もいるかもしれません。何かを引き継いで改変するときに前の名前を継承するすることは、リスペクトや敬意の意味を込めた慣習でもあるからです。
ただ、最大限自由な配布を目指しているSILライセンスで、あえてそのような制約をつけなければならなかったことにも理由があります。その最も大きな理由は、派生フォントでなにかトラブルが起こったときに、その責任が元のオリジナルのフォントの作者さんに及ばないようにするためです。
極端なたとえ話ですが、もしMSゴシックがSILライセンスで、「MS」が予約フォント名に設定されていたらと想像してみてください。ここでもし、赤の他人が作った「シン・MSゴシック」という名の派生フォントが、PCを破壊するレベルの不具合を持って全世界に配信されたとしたら…。そうなると、無関係のMSゴシックまで信用が下がったり、元のMSゴシックの作成者がクレーム対応に追われるということが起こるかもしれません。そんなリスクを被ることがわかったら、今後SILライセンスでフォントを作る人はいなくなってしまうかもしれません。そのような不幸を避けるためにも、データの中身が変更されたフォントは、予約フォント名を避けたフォント名をつけなければならないというルールがあるのです。……本当に極端なたとえ話で恐縮です。
繰り返しになりますが、SILライセンスのフォントの改変は自由に行えます。ただ。もし「予約フォント名」が設定されているフォントを改変したい場合は、多少の不便があってもフォント名を変更するようにしてください。そのことがオリジナルの作者さんへの謝辞と敬意になります。
また厳しいかもしれませんが、予約フォント名がある場合はWebフォントへの形式の変換もフォントの改変と見なされますので、同様にフォント名変更が必要です。厳密には要件をクリアすれば改変とみなされないWOFF版を作成することは可能ですが、ほとんどのWOFF変換ツールやオンラインサービスはこの要件を満たすことができません。したがって、その出力ファイルは改変フォントと見なされなければならないことに注意してください。EOTについてはさらに要件を満たせないので、こちらはほぼ確定でフォント名の変更が必要です。
2. SILライセンスの継承について
改変版のフォントを配布する場合は、SILライセンスを継承しなければなりません。
もしあなたが改変フォントの作成に莫大な費用をつぎ込み、5000兆円を使ったとしても、それを配布するときは必ずSILライセンスで配布しなければいけません。オリジナルの著作権者の善意を継承し、尊重することが大切です。
_人人人人人人人人_
> 突然のまとめ <
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以上、簡単にまとめてみました。
使用上の条件についての説明が思いのほか長文になってしまって反省していますが、私がとにかく熱くお伝えしたいのは、
SILライセンス、めちゃくちゃ自由度高いので、みんなでガンガン使おうぜ!
ということです。
公式のFAQはいいぞ
申し訳ないことに、個別の使用事例によっては、十分に説明できていない点も多々あるかと思います。
そんなもっとちゃんと知りたいよ!というあなたには、公式のFAQをGoogle翻訳を通して読むことをオススメします。機械翻訳ではありますが、十分に理解できる日本語で解説を読むことができます。ライセンス原文だけでは解釈の難しいような具体例も挙げられているので、疑問の大半は解決できるはずです。
2021/1/24 追記 Fontinstall.appさんのサイトで、きちんと翻訳されたFAQの和訳が全文掲載されていますので、是非こちらをご確認ください!
SILライセンスは非常に自由度の高いライセンスではありますが、その自由度の高さは作成に関わった人の善意に基づいています。その点はしっかり忘れずに、どんどん活用して素敵なフォントライフを送りましょう!
(2021/01/25 フォント名の変更は予約フォント名が設定されている場合のみ、という理解が抜けていたので、記事を加筆して訂正・修正いたしました。ご指摘ありがとうございました。)
SILライセンスについて私の解釈の誤りなどありましたら、さらなるご指摘大歓迎です。
コメント
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